Yannick Haenel ed. Gallimard 2009
第二次大戦中、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人のメッセージとナチス・ドイツが進めたユダヤ人絶滅政策の事実を連合国に伝えたポーランド人のレジスタンス運動家、ヤン・カルスキを描いた作品。第一部はクロード・ランズマン監督のドキュメンタリー映画『ショアー』に登場したヤン・カルスキの描写、第二部はカルスキの手記の要約というノンフィクションの手法をとった著者エネルは、第三部で初めてカルスキの内面に入り込み、モノローグを展開する。ユダヤ人絶滅政策を知りながら、聞く耳をもたなかった連合国…戦後、アメリカ合衆国にとどまることを選んだカルスキの長い沈黙を描き、ユダヤ人の言葉を繰り返すことによって、エネルはカルスキが運んだ「言葉」を21世紀によみがえらせる。すべての圧政に反逆したカルスキという少数派・反主流派の視点をとおして、エネルはユダヤ人を見殺しにした西欧自由世界、ポーランドのエリート階層を虐殺し(カティンの虐殺)、レジスタンスを見殺しにしたソ連、広島・長崎への原爆投下などの歴史を浮き上がらせる。アンテラリエ賞とフナック賞受賞作品。前作『環』Cercleで「十二月賞」と「ロジェ・ニミエ賞」を受賞したエネルの独創的な力作。